アノーゼ

何をされるのか わからないまま処置室へ移動する。入院用のベッドみたいなのがたくさんあって、カーテンで仕切られている。要は学校の保健室みたいな感じ。空いているベッドに寝かされてカーテンを閉められる。看護士に上半身裸になるように言われTシャツを脱いで下着もとって。そのままベッドで待たされる。上半身裸でひたすら待つ。横になると苦しいし痛いから座ったまま。待っている間、看護士さんが器具を色々運んで来て、それを横目で見ていたら怖くてたまらなくなった。何をされるのかわからないけど、明らかに外科的だ。持って来る器材がそれっぽい。何せ手術同意書を書いたくらいだから痛いことされるに決まってる。そんなん、こんな保健室みたいなところでやって大丈夫なのかよ!

逃げ出したかった。(基本的にわたしはヘタレだから)

手術用っぽい手袋をしながら先生がカーテンの隙間から入って来た。上半身裸で座っているわたしに、横になるように言い、苦しいし痛いから恐る恐るそーっと横になろうとしていたら、せっかちな先生は早く!とせかし、挙げ句肩を掴んで無理矢理横にさせた。く、苦しい…。

そんなのお構いなしな先生は、看護士から麻酔注射を受け取り、予告もなしに鎖骨の下辺りにブスっと一発。鎖骨下、肉が全くないから…。(涙)痛かった。局部麻酔はすぐ効くから痛いのは一瞬だったけど痛かった。次に折り畳み携帯電話ほどの大きさの白い箱状のもの(これがカテーテルらしい)を取り出した。その箱に鉛筆くらいの太さで10センチくらいある棒(これが空気を抜く管)を差し込み、看護士にそれを持たせて、先生はわたしの胸を触手する。たたいたり、音聞いたり。ああ、アレを刺す場所を探しているんだなー、アレ刺すのか…、いきなりブスって刺すのかなー、切るのかなー…。考え事してる間に刺す場所が決まったようで、そこにマジックで印をつけられた。看護士からさっきのカテーテルとやらを受け取り、それをマジックの印の上にあてがう。


そして、またも予告なしにブスっと。全体重をその白い箱にかけるかのごとく力任せに押し込まれる。


「いったーい!!!!!!」


死ぬかと思った。死ぬほど痛かった。つーか麻酔効いてなかった。マジで。途中まで胸に入っていたそれを抜いて、再び麻酔注射。怖いし痛いし、わたしはもう目を瞑って、ひたすら祈った。神様神様神様神様。

何とか無事にカテーテルは胸に入り、白い箱はテープで固定された。その箱をよく見ると呼吸に合わせて弁のようなものが動いている。その下に少しだけ血がたまっていた。基本的にはドレーン処置と同じで、漏れた空気を抜いて肺を膨らませる処置だ。たぶん肺の萎み具合から漏れた空気が少ない場合はこのカテーテルでも十分間に合うってことなんだと思う。先生、何も説明してくれないけど。

処置が終わって少し休憩してから、ちゃんとカテーテルが入っているかを調べるために再びレントゲン。撮るまで待って、撮ってからも待って。レントゲンはどうしてああ混むのか。人間ドッグ??レントゲン室の前で待っている辺りから何やら背中が痛み出す。気のせいかと思っていたけど、レントゲンを撮り終わって再び処置室に戻る時には、もう立っているのも辛いくらい背中が痛かった。具体的に言えば、ぎっくり腰みたいにピキーンとなる痛み。射し込まれた管が中から押しているような感じだった。痛いって訴えても看護士は痛み止めも出すからねーと軽くかわす。先生にいたってはもう姿も見えない。自宅での過ごし方や次の外来の予約説明を看護士がしているのを聞いていると、背中が痛いだけじゃなくてだんだん気持ち悪くなって、息苦しくなって、あ、やべーっと思った瞬間たぶっ倒れていた。看護士が必死に呼ぶ声が、意識レベル2ーとか叫んでいる声が、チアノーゼ起こしてます!と張り上げる声が、もう全部が遠くから聞こえる感じだった。辛うじてある意識が、もう辛いから向こうの方へ行かせてくれと思っているのに(死ぬんじゃなくて失神させてほしかった)、それは危険らしく意識が遠のく度に看護士に呼び戻された。死にそうな時、呼び戻されるのってこんな感じなのかなぁ。

でも結局は失神したらしく、次に目覚めた時は病室のベッドの上で、右腕から点滴されていた。

>> NEXT