院決定

意識が戻ったら病室にいて、側には誰もいなくて、一体全体何がどうなったのかさっぱりわからなかった。

わたしが起きたことに最初に気付いてくれたのは、隣のベッドのおばさんで、親切にもナースコールで看護士さんを呼んでくれた。看護士さんによれば、内科処置室でチアノーゼを起こし、気絶している間に主治医と親が話し合った結果、入院した方が良いんじゃないのかという話になった。入院したくないからカテーテルというやつにしたのに、これじゃあ意味ないじゃん!

とりあえずわたしは寝たまま、入院生活における様々な注意事項(?)のようなものの説明を受けた。トイレ、洗面所の場所、食事の時間、アレルギーの有無、ナースコールの使い方、消灯時間と起床時間、売店の場所、午前の回診時間、非常階段の場所などなどなどなど。実に事務的な説明が済むと、まずは体温と血圧を測り、薬や食事の耐性を調べる為にアレルギーチェックの注射を打たれて、それから採血。まだちょっと意識が混濁している状態なのに、看護士さんはおかましなしにテキパキとこなしてくれる。それで用が済んだらあっさりいなくなる。つーかうちの親はどこ?

看護士さんが一通りの仕事を済ませて退室したら、隣のベッドのおばさんが話しかけてきて、「あなた、ストレッチャーで急に運び込まれて来たからびっくりしたわよ。どこが悪いの?あ、でもここ呼吸器内科病棟だから肺が悪いに決まってるわよねぇ。わたしはね、もう長いの。もうずーっとここにいるのよ。ほら、肺って一度やっちゃうと長いでしょ?ほんと、あなた若いのに大変ねぇ……」と、わたしが一言も口を挟む隙を与えないほどの勢いでよく喋る。この人、本当に肺が悪いのかしら?と思えるほど。話を聞いているうちにわかってきたけど、このおばさんは煙草吸いすぎによる慢性気管支炎で、気管支炎なんだからあんまり喋らない方が良いんじゃないの?と思うけど、同室の2人が喘息持ちのおばあさんで、それもかなり高齢で少々呆けてる風で会話が成り立たない。要するにおばさんは誰かと喋りたかったようで。苦しいのと痛いのと頭がボーっとするのとで、わたしは気の利いた受け答えができなかったけど、まぁおばさんはひとりで喋って満足している風だったので、それはそれで良かった。

そのうちお母さんが来て、パジャマやらタオルやら下着やら色々持って来てくれた。この時初めて気付いたけど、わたしは病院の検査着(?)を着ていた。倒れる寸前まではTシャツだったのに。とりあえず前あきのパジャマか浴衣着用が入院患者の義務らしかったのでパジャマに着替えようと思って体を起こそうとしたら、ピキーンっと背中に筋が切れるほどの痛みが走った。無理無理。起き上がれない。お母さんにその痛みを訴え、寝たままの状態で着替えさせてもらった。いくら親子とはいえ下着姿を見られるとは…。しかも上半身は丸見えだし。

でも、そんなのは今から思えば序の口だった。

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