みに弱い人

ドレーンを入れて11日、やっとクランプまで辿り着いた…。ここまで長かったなぁ。生理もとっくに終わっちゃったよ。ドレーンのスイッチを切った時点で、もう座薬も必要なくて、痛み止めも飲み薬だけで間に合うようになっていた。相変わらず背中を突き刺すような痛みはあったけど、売店にもフラフラ行けちゃうくらいだし。



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朝の回診でクランプになって、その日の昼前、人より遅めの盆休みがとれた彼氏がお見舞いに来た。おばちゃん(彼氏のお母さん)からの超豪華フルーツ盛り合わせ(By松坂屋)を見てビビる母娘。美味しそうだったので早速桃を剥いて3人で食べた。彼氏からの見舞い品は何か怪しいカルチャー系の雑誌とリラックスの最新号。気を利かせたのかお母さんはいつもよりも早く帰ってしまい、まぁ久しぶりに彼氏とどーでも良い話をして盛り上がった。わたし、もう10日以上風呂にも入っていないわけで、当たり前だけどスッピンで、髪もベタベタして汚いし、普通に考えたらこんな姿を好きな人には見せられない!ところだけど、なんかそーゆうのが全然なくてねぇ。もう2回目だし。前の入院の時だってたいがい汚かったし。彼氏曰く、わたしは化粧をしてもスッピンでもあんまり変わらないらしく、彼氏自身もおばちゃん(彼氏のお母さん)が病気で入院した時に看病したこともあって、だいたい入院した病人がどんなもんかをわかっているから、「頭かゆい。マジかゆい」と訴えたら、汚い髪を掻き分けながら「ほんと、きたねーなぁ。かゆそう」とか嫌味なく笑い話にしてくれて、ああこの人が彼氏で良かったなぁと心底思ったね。



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クランプの翌日、朝のX線検査も問題なくクリアだったので、あの忌々しいドレーンともオサラバだーい!いえーい!!!………のはずが、回診の先生が血管専門だったので(心臓の先生、血管の先生、呼吸器の先生と別れていて、まとめて心血呼外科なのです。各専門医が3〜5人くらい。回診は同じ科としてまとめてやるので、ガーゼ交換とか簡単なことはどの先生でもやるんだけど、管を入れるとか抜くとかちょっと大がかりなことは専門医がやる)、担当のO先生が後からやりますから…ってなって、その「後から」というのが、そう、あのO先生の「後から」ってのは、「手術の後から」なわけでして…。この日の手術は肺ガンのじーさん。隣の隣の隣の部屋の廊下側のじーさんだ。かなりヨボヨボだけど口だけは達者で、見舞いに来てくれている娘さん、もしくは息子の嫁さんにいつもガーガー文句を言っている。こないだO先生が回診以外であのうるさいじーさんのところにいるのを見かけたから、肺が悪いんだなぁーってのはわかっていて、今朝、手術着でウロウロしていたから、今日手術するんだなぁーってのもわかって、誰とでも喋りまくる隣の病室のおばちゃんが「あの人、肺ガンの手術なんだって!」と言っていたから肺ガンなのか…と。入院したら、病棟が世界の全てみたいなところあるし、誰が何の病気かなんて、うっすらみんなわかっちゃうものなんだね。

その口うるさいじーさんの肺ガン手術は、たぶん朝いちばんで始まったはずなのに、待てども待てども先生は来なくて、先生来ないからいつまで経ってもドレーンは抜いてもらえなくて、わたしの予定では今日の午前中にはドレーン抜いて、入院生活ラストの日を身軽に過ごすはずだったのに…、なんと先生が病室に来たの19時過ぎ!!!


「いやー、遅くなってゴメンねー」

「手術、長かったね。あのうるさいじーさんでしょ?」

「ああ、その手術は予定通り2時前には終わってたんだけどね。手術終わって飯食ってたら急患で呼ばれてさー、そのまま緊急オペになっちゃってねー」

「もしかして先生、ごはん食べてないの?」

「うん、昼飯の途中だったし。ちょっと食べたけど」

「医者って大変ですねー」

「今日はもうこれが最後だけどね。君の管抜いたら仮眠室行ける」

「仮眠室?帰らないんですか?」

「今日オペした人、気になるじゃん。何かあったら困るしねー」

「医者ってほっんと大変ですね」(さっきより熱を込めて)

「医者に限らずどんな仕事でも一生懸命やれば大変ですよー 」


そんな会話をしながら管を抜く準備が整っていた。
薄々気付いていたけど、この先生、ほんとうに良い先生だと思う。喋りは軽いし緊張感に欠けるけど、すっごい良い人だ。

「じゃあ抜きますよー。ちょっとだけ痛いからね」

「はーい…」

「息吸ってー……、はい、止めて!」

「いてーーー!!!」


これまた経験したことのない痛みが、痛みが、痛みが!!!一瞬だったけど、管がズボって抜ける感触が肋骨にほとばしったし、背中に槍でもぶち込まれたような鋭い痛みが!!!。超いてーよ。ちょっとどころじゃねーよ。管抜いた痕のところに、何か冷たくてドロっとしたものがついたガーゼをあてられた。ドレーンの器械やらを片づけながら先生は、

「ほんと、元さんは痛みに弱いなぁ(笑)」

「先生、笑い事じゃないって。マジ痛いんだってば!」

「肋間神経が過敏なんだろうねぇ」

「???」

「ま、これで明日の朝レントゲン良かったら、昼には退院ね」



入院最後の日、初めてベッドに横になって眠れた。GBAでドラクエやったり、深夜ラジオを聞きながらウトウトて、痛み止めを飲んでも良い時間をひたすら待つ辛くて長い夜を思い返すと、この日の夜は最高だった。消灯から起床まで眠れたの、初めてだよ。


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