神様仏様に祈りなさい
ドレーンを抜いた翌日、何ら問題もなく無事に退院できた。この日の回診は呼吸器の若いY先生で(髭面だけどちょっと男前。O先生の後継者になるのかな?)、O先生とは会わずに退院となった。退院後の注意事項と、次の外来の予約と、入院費用の支払方法について看護士さんから説明と受け、同じ病室だった人と顔見知りになった同じ病棟の人に挨拶をして、2週間近くお世話になった病棟を後にした。
会計窓口で精算する前に、売店で防水シートを買う。バンドエイドの進化版みたいなもの。これをピッチリ貼ればシャワーを浴びて良いって言われたので。2週間振りの風呂だ。いえーい!!!
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O先生の外来は週1日しかないので、外来は退院の4日後だった。管を通した傷口から水平に、肋骨に沿った感じの神経がピリピリ痛かったけど、他に気にすることもなく平穏無事に過ごせたのは退院してから2日間だけ。3日目の風呂上がり、脱衣所でパンツを履こうとして上半身を屈めた時、左胸がほんの少しコポコポ鳴った気がした。ん?と思ってもう一度上半身を屈めてみる。違和感、あるような、ないような…。それから、時々ふとした時に、何とも言い難い「違和感」を感じるようになった。でも、明らかに「肺がつぶれてるー!」みたいな感じではない。そこまで痛くないし、苦しくもない。だから、気のせいだ、気のせいだと言い聞かせ、心肺になるべく負担をかけないようにおとなしくしていた。
そして退院から4日後の外来の日。外科の外来の8割は入院して退院した患者ばかりなので、そう待つこともなくすんなり診察室に呼ばれた。でもX線検査室は満員御礼だったから意味なしッ!アレだ、アレ、人間ドッグ。同じ検査着の人がズラーっと並んでいたし。
でまぁ、いつもの通りレントゲン撮って、技師の人とも顔見知りだったから(そりゃ入院期間中毎日会っていれば覚えるわな…)、「来ないと思ったら退院してたんですねー、おめでとうございますー」とか言われて、「えへへ、そうなんっすよー」と愛想笑い返し。こんなやりとりも、退院したからにはこれが最後だ。アデュー。そして出来立てホヤホヤのレントゲン写真を持っていざ診察。
「んー、肺は普通サイズだね」(レントゲン見ながら)
「そうみたいですね」
「傷んとこ、見せてもらえる?」
「へーい」(服をめくりあげながら)
「その後どう?」(防水シート剥がして)
「あー、なんかね、時々コポコポってなる。前屈みたいな格好すると特に」
「コポコポするんだ…」(傷を消毒して新しいシートを貼る)
「もしかしてやばい?」
「いや、でも今日のレントゲン見る限りでは問題ないんだけどね」
「…やっぱ月経性何とかってやつなのかなぁ…」
「うーん、それは次の生理が来てみないとわからないねぇ…」
「もしそうだったら、毎月ドレーン入れるの?」
「薬で生理止めちゃえば不思議なことに気胸は起こらないから」
「あ、そうなんだ…」
「んー、でもまぁ、月経性随伴気胸は起こる原因とかはっきり解明されていないからね、色々難しいの」
「先生の患者さんでそういう人いた?」
「あー、5年くらい前にひとりね…」
「ふぅん…」
「このシート、明日くらいに剥がして良いよ」
「はーい。ねえ、先生、禁煙したらもうならない?」
「煙草はそりゃ吸うよりは吸わない方が良いけど、吸わないからってならないってわけじゃないよ」
「あ、そうなの?」
「バンバン吸ってもいやに健康な人もいるじゃん」
「あー…」
「元さんの場合、お兄さんも気胸だしお祖父さんも肺悪かったんでしょ?だったらかなりの確率で心肺機能が弱いはずだから気胸に関係なく煙草はやめた方が良いと思うよ」
「ですよね…」
「ドレーン入れただけであんだけ痛かったわけでしょ?肺ガンの手術ってものすっごい痛いからね(笑)」
「へえ…」
「ま、そういうことで、一応これで終わり。気になるようだったら気軽に来てレントゲン撮れば良いよ。あと、万が一さ、今度なったら救急センターに行くと良いよ。その方が対応早いしね。外来で待つの鬱陶しいでしょ?」
「できれば二度と来たくないなぁ(笑)」
「そりゃそーだね。こればっかりは神様仏様にでも祈るしかないねぇ(笑)」
科学者である医者に「神様仏様に祈れ」って言われてもなぁ…。診察室から出ると、中待合室に同時期に気胸で入院していた男の子がいた。向こうもわたしに気付いて、全然知り合いじゃないけど軽く会釈をした。きっとわたしたち、無意識のうちに「気胸同属」意識が芽生えているんだと思う。(笑)仲間仲間!!
…なーんて呑気なことを言っている場合じゃなかった。「良い先生だったけど、できれば二度と会わずに済みたいなぁ」という淡い期待は、たった3日で覆される。気胸との戦いはまだ終わらないのである。チーン。
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