さい先生

手術中の先生を待つことさらに1時間。もう昼だよ!!!待てども待てども呼ばれない。かなり苦しくて痛いからうろうろ歩きまわるわけにもいかず、ただじっとじーっと待つ。外科の外来からトイレはこれまた遠くて、でも尿意はそれなりにあるわけで、誰かに変わってもらうわけにもいかないし、亀の歩みで、しかも前屈み(ちょっと楽)でトイレに。トイレの鏡に映る自分の顔を眺めながら、手術するのかなぁ、また何か管を通すのは間違いないよなぁ、前みたいに痛かったらイヤだなぁ、怖いし…、入院は確実だろうけど…、トイレとか行けるのかなぁ…、今度こそ尿瓶!?えー、やだー…、痛いのもやだー、つーかマジ怖い怖い怖い…そんなことをエンドレスに考えていたらマジ泣きそうだった。

「あんた、何してんの?」

お、お母さん。 びびらせないでくれよ。「やっと呼ばれたよ」と。ほんと、やっとですね、お母さん。怖い気持ちをグッとこらえて、ちょっとおちゃらけたことも言いつつ外科外来に戻った。年輩の看護士さんがウロウロ探してくれていて、わたしを見るなり「あぁ、いたいた。どっかで倒れているかと思いましたよー」と本気で安心した風に言ってくれた。

既に午前中の外来は全て終了したようで、待合室にはもう誰もいなかった。だってもう0時半…。看護士に案内された部屋は、意外にも心血呼外科診察室じゃなくて小児外科診察室だった。中に入ると、手術着のまま(しかも血がついてた!?)の先生がわたしのレントゲンを眺めていた。その先生は、手術用(だと思われる)の帽子に、手術用(だと思われる)のマスクに、オタクっぽい銀縁眼鏡でほとんど顔がわからない、椅子に座っていたとしても、その椅子の座高がもしかしたら普通より低いとしても、明らかに平均よりもかーなーりー小さいと思われる年齢不詳の人だった。

「すみませんね、遅くなっちゃって…。手術が予定よりも長引いちゃって」
(よく見たら汗まみれ。しかも若干息切れしてるし)

「はぁ」

「それにしても見事な気胸だね〜」(なぜか嬉しそう)

「はぁ」

「こんだけ潰れたら歩けないでしょ?」

「えぇ、まぁ…」

「うーんと、どれどれ…(カルテ見ながら)、2週間前か…」

「…やっぱ再発だし手術ですか?」(ドキドキ)

「再発だからねぇ…。でもまぁ、まずは空気抜くのが先だね。胸腔ドレーンってやつで…。前も内科でやった?え?違うんだ。ああ、カテーテルね。今回はもう本格的なの入れるから。えーっと、左だから…、ここら辺から管を入れて、こーゆう感じに入ります。(レントゲンで管のルートを説明)で、原理としては前のカテーテルと同じで漏れた空気をポンプで吸い上げて、潰れた肺を膨らませる。これ見るとわかるけど(レントゲン参照しながら)、この影は水が溜まってるの。血も混じってるけどね。それも一緒に吸い出すから。で、膨らんだところでCT撮ってみて、手術するかどうかはそれ見て考えましょう。手術もね、本人の意思だから。手術しなきゃ治らない病気じゃないし、手術したから再発しないわけでもないしね」

「はぁ…」

「あ、わかっていると思うけど、入院だから」

「はぁ」

「管入れはベッドでやるから。まずは〜…、ベッドを確保しないとねぇ〜」(やっぱり嬉しそう)


先生は看護士さんと話しながらデスク上のパソコンを操作し始めた。別に見ても良いよと軽く言われたから、興味本位でパソコンの画面を覗くと、病棟の平面図にベッドがたくさん描いてあって、そのベッドには入院患者と思われる名前があって、その名前をクリックすると病状、診療科、担当医、担当看護士、入院日、手術日、退院予定日が細かく表示される。

(余談:心血呼外科の病棟は東3階で、そこは婦人外科と一緒の病棟だった。ちなみに西3階は脳外科、外科。中央手術室とICUが3階にあって、そこをいちばん利用するのが外科だから外科は3階に集中しているらしい。上の階に行けば行くほど緊急度が低い診療科という仕組み。病院はだいたいそういう造りになっているみたい。)

どういうわけか、東3階は万床だった。ベッド開きなし。看護士さんが「東5階なら開きありますけど…」と勧めているけど、先生は「えー、遠いし回診とか色々不便でしょ?それにドレーン入れるからなぁ…。何かあった時に慣れた看護士が近くにいた方がねぇ…」とか何とか。何かって何だよ!(ドキドキ)更に先生は色んな患者をクリックしては「あー、この人明日退院じゃん。今日だったら良いのにねぇ」なんて不謹慎なことを言う。しかも婦人科の患者。(自分の受け持ちじゃないわけで)

すぐにはベッドが見つかりそうもなかったから、先生はベッド確保を看護士に任せて、その間にお母さんを呼んでまた詳しい説明をしてくれた。でもまぁ、わたしもお母さんも兄がなった時の知識があったから、そう突っ込んで質問することもなく、ただ前回カテーテルを入れた時に死ぬほど背中が痛かったことを告げたら、

「あれは個人差がすごいあって、全然平気な人もいれば元さんみたいにすごい痛い人もいて…。管入れる時に極力神経を避けて入れるようにはしているんだけど、気胸になる人って基本的に痩せているから、慎重に管のルートを選んでもどうしても太っている人に比べると神経に当たりやすくなっちゃうんですよ。まぁ痛み止めを錠剤、座薬、注射と用意するので、最悪はそれで乗り切ってもらうしかないと言うか…」


つまるところ、先生の手腕とあとは運みたいなものなのか?




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