度は胸腔ドレーン

案内された病室は4人部屋で、わたしの隣が大静脈瘤の手術後3日の染井さん(40歳くらい)、向かいが子宮ガンで子宮全摘手術後2日の中井さん(うちの親とおなじくらい)、その隣が心臓ペースメーカ埋め込み手術を明日に控えた吉田さん(70歳くらい)。心血呼外科&婦人外科なのでそんな人ばかり。外科だからさ、みんな手術すんのよ。

挨拶もそこそこに、まずは恒例の入院の説明。これは既に2度目なのでわりと簡単に済んで、その後アレルギー検査の注射2本とエイズ検査の採血。その直後に婦長さんが来て挨拶と少しお話をして、それから松井さん(例の同級生看護士)が「O先生、急患が入ってちょっと遅くなるみたいで…。大丈夫?苦しかったら酸素マスクつけるけど…?」と。苦しいと言えば苦しいけど、じっと座っているだけなら平気だから酸素マスクは断った。

それにしてもあの小さいO先生、朝いちばんで手術があって、それから走ってわたしのところまで来て、で、今急患かよ…。大変だなぁ。急患ってひどいのかなぁ。一応わたしも緊急入院だから急患扱いなんだけどなぁ。




*****

で、「ちょっと遅くなる」どころか「すっげー遅くなりましただろ!」ってくらいになって、やっと先生がやって来た。相変わらず手術着のままで。先生より少し遅れて看護士2人が何やら外科っぽい器具をわんさか乗せた台と管を繋げる器械を持って来て、「じゃあ管入れますか」と。

朝一番で病院へ来てから、待って待って待たされてやっと処置をしてもらえるようになったのが16時。一見待ちくたびれてダレているようだけど、実は心臓ドキドキで、前のカテーテルとは入れる場所が違うだけでやることは基本的に同じだろうし、肉のないとこに麻酔打って管をブスッと差し込むんだろうし、もう怖くて怖くて…。恐怖でどうにかなりそうなのに、それを何とか堪えられたのは、たぶん向かいのベッドにいる子宮全摘した中井さんがものすっごく体調悪そうで(まあ手術してまだ2日だしね)、それなのにわたしの心配をしてくれたからで。「若いのに…、大変だね」って。(あとでわかったけど、どうやらわたしは高校生くらいに思われていたらしい。そりゃ高校生だったら、せっかくの夏休みなのに病気になって可哀想に…と思うだろうよ)

そして恐怖の管入れが始まる。

ベッド周りのカーテンを閉め、上半身裸になってベッドに横になる…はずが苦しくて横になれない。看護士さんが苦しくないギリギリのところまでベッドを起こしてくれて、でも不安定だと危険だから本当はかなり苦しかったんだけど、頭に枕いれて背中にタオル入れて体を安定させてくれた。体の在処が決まったところで、先生は触診しながら管を入れるルート?を確認。

「あれ?そういえば前なった時、カテーテルってのはどっから入れたの?痕がないじゃん」

「え?あ、ここ。鎖骨の下んとこ…」(は?何言ってんの?)

「へー、こんなところから入れるんだ」

「…」 (おいおいおいおい、大丈夫かよ。科は違っても同じ病院だろ…)

「あぁ、まぁ、色々なやり方があるんだよ…。うん、そう。ははは。あーっと、今回はこの辺りから入れるからね」

若干しどろもどろになりながらも、先生は左側面、ちょうど乳首の真横辺りの肋骨の合間を指で指して言った。そこも鎖骨下に負けず劣らず肉なくて痛そうだなぁ…。痛いだろうなぁ。


「じゃあ麻酔するよ〜。知ってるだろうけど最初だけ痛いよ〜」(やっぱりどこか緊張感に欠ける先生だ)

目を瞑って歯をくいしばる。

くいしばる。

くいしばる。

い、い、いでー!!!!!

麻酔は針を刺す痛みより、刺さった針から液が押し込まれる痛みの方が100倍痛い!

既にこの時点で涙目。頭の中は神様神様神様神様…。


「メス」


やっぱ切るんだ…。あー、でも麻酔してあるから…。切ってる感じはしたけど、痛みはなかった。

次はとうとう管。先生は看護士さんから管を受け取って、メスで切ったであろうところに押し当てる。

「管入れるからねー。息吸ってー」

息を吸う。

「ハイ、止めて」

ん。息を止める。

止める。

止める。

!!!!!!!!

「いぃぃぃっっっぃいいったーーーーーーーーーい!!!!」

全身が雷で打たれたような痛み。いや、違う。もうわかんない。経験したことないよ、あんなの。何が何だか、何がどう痛いのかもわからない痛み。もう、死ぬかと思った。
痛さのあまり体がビクンとなったせいで、半分入れた管をいったん全部引き出し、再び麻酔。


麻酔が効いたところで、気を取り直して再びチャレンジ。今度はさっきの恐怖がリアルにあるせいで、もうジッとしているのも辛い。微妙に震えてしまって、足と腕を看護士さんに押さえつけられる始末。動くと管を入れる軌道がズレたりして危ないからだって。

麻酔を2本打ったおかげで、さっきのような猛烈で強烈な痛みもなく管は無事に入ったようで、看護士さんがその管の片側を器械から出ている管と繋げて、 先生は管の挿入部分(体の方の)にガーゼとテープで管を固定して、全てを終えたところで器械のスイッチを入れた。


「死ぬかと思った」の本番は、実はこれから始まる。



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