らまない肺

CT検査の結果は、翌日の回診を待たずその日の夕方やって来た。昼過ぎから来ていたお母さんも帰って、夕食が配布された直後、いつものようにフラっと先生は来た。やっぱり手術着で。(笑)


「ああ、ゴハンの時間かぁ。まだ17時半なのにねー。いつも思うけど病院のゴハンて早いよねー」

「先生、手術だったの?」(この人、毎日手術してんのか?)

「うん、午前中にね。昼過ぎに急患で気胸がまた来たよ。(笑)」

「流行りだね」

「まあ季節的にねー」

「ははは」(緊張感のない人だなぁ)

「CTのさー、結果なんだけど…」

「う、うん」(ドキドキ)

「かなり薄く切ってもらったんだけど、なかったんだよね…、ブラが…」

「なかったってことは…?」

「いや、でも、穴が小さすぎて写らないこともあるし、ドレーンのスイッチ切って肺が萎むなら、穴が空いているはずなんだけど…。大きいのがひとつドカって空いている人もいれば、小さいのがたくさん空いている人もいるし、色々あってねぇ…」

「ぶっちゃけ月経何とか気胸ってやつなの? 」

「それはまだわからない」

「え?でもブラがなかったんですよね?」

「そうだけど、CTに写らなかっただけの可能性も高いし、来月、再来月と何回か生理のたびになってみないと…」

「えー…。毎月毎月こんなんなったら死んじゃう…」

「や、まだ決まったわけじゃないからさ。そーゆうのはなった時に考えれば良いことだし。まぁとりあえずさ、今回手術するかどうかってのは、しないってことにしておこうか」

「うーん…」

「ドレーンでこんだけ痛いの見てると、手術はちょっと可哀想だなってのがあるし、まぁ本人の意思なんだけどさぁー、どうする?」

「…やめとく」

「手術もさ、もしまたなったら、そん時にでも考えれば良いから。無理にすることもないし。しなきゃ死んじゃうような病気じゃないしね」

「うん」

「あんま悩まないように。どう?最近ゴハン食べてる?」

「まぁボチボチ」

「食べられなかったら点滴するからちゃんと言ってよ」

「へーい」



がくーん…。複雑な心境だった。手術は怖い。死ぬほど怖い。しないで済むならそれに越したことはない。だから手術はナシで合意したことに関しては、ちょっと気が楽になった。だけど、もしかしたら月経随伴気胸かもしれませーん!ってことは、どうしたことやら。至って冷静を装いつつ、脳内では大変だ!大変だ!と小人が大暴れ。本気で神様に祈った。そういや気胸になってから祈ってばっかりだな、わたし。「月経随伴気胸じゃありませんように。もう二度と再発しませんように。病院にいる人がみんな、早く良くなりますように」いつものようにトイレで祈った。




*****

膨らんだり萎んだりを繰り返す肺。CTの翌々日、隣のベッドの染井さんが退院した。その直後、ベッドメイクが終わった瞬間に次の人が来た。子宮頸ガンで明後日手術する大谷さん、40歳くらい。(子宮ガン、多いなぁ…)ペースメーカ埋め込み手術をした吉田さんも術後の経過は良好みたいで、ICUも1日で出て来たし、手術予定表通りに重湯→普通食へ戻っている。向かいのベッドの中井さんも普通に元気で、保険会社の人とか娘さんやら旦那さんやら毎日来ている。



*****

わたしの肺は思ったように膨らまないからドレーンのスイッチも切ってもらえず、痛み止めはだいたい座薬で間に合うようになって、痛くない歩き方とか痛くない座り方も把握していた。わたしの2日前に入院した気胸の男の子が昨日退院して、わたしと同じ日に急患で来た人も今日の検査結果次第で退院が決まるみたいで、それなのにわたしは未だにドレーンのスイッチすら切ってもらえない状態…。先生もうーんうーんと悩んで、もう一度CTを撮るかどうか考えていた。普通、ドレーンを入れても肺が膨らまない場合は手術をする。うちのお兄ちゃんもドレーンを入れて何日経っても肺が膨らまなくて、明後日までに膨らまなかったらそのまま手術ですって言われていて、その期限の前日に膨らんだ。このままじゃ、わたしの意思云々は関係なく、手術をしなきゃいけないかもしれない…。


そういや、風呂に何日入っていないんだっけ…?


>> NEXT