朝いちの検温タイムの時、看護士(今日の朝の担当は手術前に脇毛を剃ってくれた可愛いあの子)に背中が痛いと言ったら、スーっとするスプレーみたいなのをシューってやってくれた。わざわざ腰を持ち上げてもらって。気休めみたいなもんだけど、気持ち良かった。看護士は尿カテーテルの先(おしっこ溜まるとこ)に一滴も入ってないのを見て「元さん、おしっこ出てないけど…」と変な心配をされた。ああ、おしっこ…。体のあちことが痛くておしっこがしたいとかしたくないとか、そういう感覚が全然なかった。んじゃしてみますか、そう思って可愛い看護士さんが去ってからしてみた。超変な感じ。おもらししてるみたいな。(笑)出てるのか出てないのか、自分でもよくわかんないし。でもした後が最悪。なんつーの?あれは膀胱炎の感じ。出ないのに残尿感がものすっごいあるってやつ。


朝だからって何も状況は変わらず、酸素マスクで口と鼻はうがうがしているし、麻酔の管のせいで喉痛くて、痰出すと血で真っ赤だし(痰はどんどん出せと言われていた。喉の傷から感染症にならないために)、手術の時の傷(?)は痛いし、背中の床ずれは痛いし、寒いのはもうとっくに済んで、逆に今度は無駄に暑いし。ストッキングが暑くて蒸れて気持ち悪い。


テレビも見れず相変わらずMDを聞いて気を紛らわしていたらお母さんが来た。いつもよりずっとか早く来てくれたみたい。ぬれたタオルで顔をふいてもらって、眼鏡もはめてもらった。久しぶりに視界がクリアになる。

それから出張レントゲンが来てくれて寝たまま撮影。それが済むと担当看護士の子が来て心電図を全部取っ払ってくれた。体を拘束しているものがひとつ減った。次は抗生物質の点滴。これが30分くらいで終わって、また持続点滴に交換。この点滴のせいか、すっごいおしっこしたくなって、気持ち悪いけど頑張ってする。(笑)そしたらけっこう尿がたまって、通りすがりの看護士さんが気付いて捨ててきてくれた。尿瓶に比べたら、気持ち悪いけどカテーテルの方がマシなのかなぁとお母さんと語る。何せ兄ちゃんの時は尿瓶だったから。(笑)


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お母さんに聞いた話。
わたしが手術室に入って3時間後、待合室で待っていたら看護士さんに「元さんのご家族の方、先生がお呼びですのでこちらの面談室へどうぞ」と呼ばれた。もちろんわたしはまだ出て来ていない。だから手術は終わっていないはず。なのに先生に呼ばれるなんて!お母さんはマジで何かあったんじゃないかと思ったらしい。ここ数年のうちで、いちばん動揺したらしい。看護士に案内された面談室は受刑者が面談するみたいな部屋のあーゆう感じで、ガラスでこっちと向こうが仕切られていて、椅子に座って待っていたら手術着のO先生がシルバーの皿を持って現れた。何かと思えばその皿には切除したわたしのブラと肺の一部がのっていて、それを見せながら「これがブラです。CTに写っていなかったのも2ヶ所あって全部切除しました」と、ピンク色のナメクジみたいな気持ち悪い物体を見せられたそうな…。

この面談はこの病院ではどの手術でもやることみたい。 腫瘍でもポリープでも何でも切除したものを家族に見せるなんて…。というか、見せられる家族にとったらどうなの、それ?見たってわかんないじゃん!というのがお母さんの言い分。それより、そーゆうことがあるってことを最初に言っておいてほしかったって!びっくりして寿命が縮まった!とぼやいていたよ。お疲れさまです、お母様。


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いつもの朝の回診はなくて、11時過ぎにO先生とY先生がふたりタッグでやって来た。小さな小瓶(?)を目の前に差し出して「これ、切除した元さんのブラだよ」と。うえーなんじゃ、こりゃー。O先生は嬉しそうに「3ヶ所もあるとは思わなかったけど。これでたぶん全部だから」と。わたしは自分のブラに釘付け。


「ブラの形状上、正常な肺も少しくっついているんだけど。ここのコレとか肺ね」

「へー」

「ここ、ちょっと黒いのがあるのわかる?」

「ああ、はい」

「これ、煙草吸うから黒くなってんの」

「え?」

「こーゆうの見ると煙草やめようって思うでしょ(笑)」

「うー…」


お母さんとY先生が笑う。こんなの見なくても、2回目の入院から一度も吸ってませんよ。再発が怖くて吸えなかったよ。1回目の時は余裕しゃくしゃくでスパスパ吸っていたのに。2回目のあの死ぬほどの痛み、あれを二度と味わいたくないと本気で思ったし。あんな思いするくらいなら二度と煙草は吸うまいと。だから、こんなの見る前から禁煙はしていたけど、きっとこれから何年も再発しなかったら、もしかしたらいつかまた吸い始めてしまっていたかも。でもこれ見て、たかが8年ちょっとで既に黒いのがショックだったし、病気の怖さを身をもって体験した今、少しでも病気になるリスクのあるものは、精神的にもう受け付けないと思った。だからわたしは、禁煙特有の苦労は何も感じることもなく禁煙に成功した。禁煙の苦労よりも再発の恐怖の方が何倍もあったしね。(笑)


ともかく手術は成功ということで。


切ってあったドレーンのスイッチを入れられる。やっぱり入れた瞬間背中に稲妻が走る。グエっと一瞬なったけど、まあいつもよりはマシっぽい。先生に支えられながら上半身を起こしてみたけど、なんとか起き上がっていられそう。痛いは痛いんだけど。傷口のガーゼを交換するからってことでパジャマの前を開けたら、この時初めて気付いたけどガーゼだらけ。左脇下、その少し上、左乳房周辺全体。それにドレーンの管の位置も少し違うような…。先生に聞いたところ、内視鏡入れた穴にドレーンを入れ替えたそうだ。開胸することはなかったから、体に残る傷跡は、1回目の鎖骨下、2回目の左側面のドレーンの穴、今回手術の前にあけたドレーンの穴、手術の内視鏡入れたとこ、器具をつっこんだ穴が2つ、合計6コ。


「あ、そうだ。点滴も左になってるね」(わたし)

「ああ、それね。痛そうだったから麻酔効いたところで付け替えた」(Y先生)

「 右腕どう?消毒しといたけど…。ちょいガーゼはずすよ」(O先生)

先生ふたりそろって右腕を確認。

「あー、まだ紫になってるね。でもガーゼはもうしなくて良いよ。血止まってるし」(O先生)

「痛いと思っていたけど、やっぱ気のせいじゃなかったんだね」 (わたし)

「看護士も見ればおかしいて普通は気付くんだけどなあ」(Y先生)

「あー…、あの点滴さー、W先生がやったから勝手に変えたりしにくかったんじゃないの?」(わたし)

「「え!?」」(先生ふたり声をそろえて)


W先生、一応このふたりの上司みたいなもんだからなぁ。(笑)点滴下手くそだけど。


そんなこんなで、ドレーン入れても大丈夫っぽかったし、酸素量測定でも規定値あったから、酸素マスクと尿カテーテルを外しても良くなった。尿カテーテルはあとで看護士にやってもらってねということで。そりゃそうだ。シラフで素股を見られるのはいくらなんでも恥ずかしい。


これでとうとう体を拘束しているのはドレーンと点滴のみ。 食事は夜からだけど、水くらいなら飲んでも良いと言われたし。



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