レーン再び

レントゲンとカルテを見ながら「気胸」だと確認し、さてドレーンは誰がやりますか?とか相談しだしたらどうしようかと思っていたら、年増の看護士に「担当のO先生に連絡して下さい」と指示を出してくれた。ああ、そうなのね。こういう手に負えない患者とか既に担当の医師がついている患者は、診るだけ診たらまわされるってわけなのね。

3人いる若い研修医(もう勝手に研修医だと決めつけるわたし)の中でいちばんマトモそうな女の先生が、呼吸の浅いわたしの様子に酸素投入のため、備え付けのベッドまで移動させて酸素マスクをつけてくれた。口と鼻の周りがもわもわするけど、確かに呼吸は楽。そのままベッドに座ってO先生と連絡がつくのを待った。


数分後、救命センターに来たのは、O先生ではなく心血呼外科の呼吸器専門のいちばん下っ端Y先生だった。

「元さん、大丈夫?」

「あ、こんにちは」(呑気な患者)

「O先生さー、今オペ中で…」

「あー…」

「呼吸器、ぼくしかいなくて申し訳ないんだけど…」


このY先生は結構若い人で、たぶん研修医あがり…。O先生とは違って普通に男前。(笑)でも医者は顔じゃない!断じて顔じゃない!腕だよ、腕!!!!!


Y先生は救命の研修医たちと話しながらわたしのレントゲンをチェックして、聴診器で呼吸音を聞いて、「ぶっちゃけ、かなり苦しいでしょ?左、全部空気もれてるよ…」と。それからY先生はひとりでうーんうーん悩んで、どこかに電話をかけた。2〜3分で電話が済んでわたしのいるベッドまで来ると、申し訳なさそうに説明をはじめた。

「今、O先生に連絡とったんだけど、オペ終わるの待つとたぶん夜になっちゃうんだよね。元さんの今後の治療のことは、手術とかそーゆうの、それはご家族の方も加わってもらって明日の朝にO先生と話してもらうとして、とりあえず左肺、ぺっちゃんこだからね、ドレーンは入れないと…。で、ベッドの方はもう少し時間がかかるから、ドレーンはここで入れて、病室へはあとで移動してもらうってことで…、良いですか?ドレーンはぼくが入れますので」


…………。


そうですか。O先生は来ないんですね。ドレーンは男前だけど経験はあまりなさそうな(失礼極まりない発言!)研修医あがりのY先生が入れてくれるわけなんですね…。(涙)

Y先生は研修医と救命の看護士にテキパキと指示を出してドレーン挿入の用意を始めた。待合いにいたお母さんも中に呼ばれて、別の看護士に説明を受けて、心配そうにわたしを見ている。お母さん…。お母さんに気付いたY先生が挨拶をして、再び側に来てわたしと同じ説明をしてくれた。


********

用意が整った。もう覚悟を決めるしかない。(怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い…)

「元さん、前回前々回で神経反射がものすごかったから、麻酔を調節して多めに打ちますね。ここの切り口と(ドレーンの入り口になる左側面)、神経反射が起こるここ(肋骨ど真ん中辺り)。管はこう(前と同じように管のルートを指で体をなぞって説明)入ります」

「…(既に歯を食いしばるわたし)」

「…、怖い…ですか?」

「…(首を縦に振る)」

「痛み止め、ちゃんと用意してあるから大丈夫」

「…(首を縦に振る)」

「じゃ、始めますか」


ここからは前回と同じ。(苦笑)まずは左側面にブスっと麻酔。これが痛い。もう何度目だ?肉のないところへの麻酔…。次に神経反射用の麻酔。肋骨ど真ん中。こんなとこ、骨と皮しかねーよ…。余裕であばらが浮かび上がるような上半身だぜ!もー痛い痛い。(涙)麻酔2本で既に涙目。男前のY先生を至近距離で見たって何も感じる余裕もない。(笑)前のドレーンよりも入り口が上。同じ穴は使わないらしい…。麻酔が効いたところでメスでさっくり切られ、恐怖の管入れ。あれ、ググっと管が入る感じが何とも言えない気持ち悪さ。時々どっかに刺さって激痛走るし…。手はベッドの柵を握りしめ、足は看護士に押さえられ(ビクっと動くと危険なので)、目をぎゅっと瞑ってひたすら耐えた。神様と仏様に祈って、Y先生の腕を祈って。


何とか無事ドレーンが入って、管の入り口をガーゼとテープで固定された。この時点で既にTシャツを着るのは無理だったので、どうせ入院も決定だし、ここでパジャマに着替えさせてもらった。着替え終わったところを見計らってY先生がドレーンのスイッチを入れた。入れた瞬間稲妻が背中を!!!ピキーン!!!そして肺が何やら込み上げるような感じ。吐き気じゃなくて、肺そのものが口から飛び出してきそうな感じ。ひぃぃッ!となったわたしを見て、先生はドレーンの数値をいじって(たぶん吸引力を弱めたんだと思う)、それで少しおさまった。

病室の用意もできていて、病棟看護士が車椅子で迎えに来てくれた。でもドレーンがあったからどうしようか?となって、先生がストレッチャーで行こうかと言いだして、それは恥ずかしいから無理矢理車椅子にしてもらった。ストレッチャーなんて…。大袈裟な。

病室までの道のり、なぜか先生も同伴で、歩きながら補足説明(?)をしてくれた。肺の膨らみ方はかなり悪くなるけど、痛みを考慮して通常より細い管を使用したこと、手術を前提に管の入れ方を決めたこと、普通にドレーンのスイッチを入れるとたぶんすごい痛くなるから弱めてあること、だから肺はあんまり膨らまなくて、ほとんど左肺は肺の役割を果たしていなくて酸素量が不足しているから、病室では酸素マスクを付けなきゃいけないこと、気胸の手術はO先生はこの地域でたぶんいちばん症例をこなしているから心配ないよってこと。その他色々。


痛がりのわたしを色々気遣ってくれていたのか。(笑)確かに前回のようなモルヒネを打つほどの痛みは、今のところない…。今のところはね。


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