くさんの誓約書

翌朝、這うように公衆電話へ向かい家に電話をかける。お母さんに手術の話があるから11時に来てと。久々に病院で迎える朝。ドレーン引いて顔洗って歯を磨いていたら、抗ガン治療中のおばさん(前の入院で顔見知りの)に会ってびっくりされた。前、退院する時に「よかったねー」って声をかけてもらっておいて、1週間で戻って来るなんて。恥ずかしい。(笑)前、同室だった人はみんな無事に退院したっぽかった。良かった。

朝食。やっぱり食欲がなくてほとんど手をつけず。肺なんて食系の器官じゃないから全然食べて問題ないけど、これは精神的なものだから仕方ない。一応がんばって牛乳だけ飲んだ。痛み止めの効果もとっくに切れて、ほんの少しの動作で背中に激痛が走る。体をふきに来てくれた看護士さんにそのことを言ったら、朝のレントゲンは出張大サービス。来てくれた。その後で座薬。朝の回診はW先生とY先生の2タッグ。O先生は後から来まっせーとのこと。レントゲンの結果は肺は殆ど膨らんでいない模様。(涙)そりゃ多少は膨らんでいるけど、たぶん穴がでかいかたくさんあるせいだって。うへー。食事代わりの点滴をされる。ドレーンが左なので当たり前のように右腕に。利き腕を拘束されて何もできない。よく考えてみればこれはなかなかの格好。胸からはドレーンの管。右腕には点滴。口には酸素マスク。どんな重病人だよ。

点滴が終わるか終わらないかの時にお母さんが来た。お母さんに売店で買ってきてもらったヨーグルトを食べて、先生を待つ。11時を少し過ぎたところで先生が走って来た。(この人、よく走る。小さい体でぴゅーって)追いかけるように看護士もひとり。挨拶もそこそこに説明が始まる。先生の言ったことを抜粋すると…


*今日の昼からもう一度CTを撮る。結果、ブラがあってもなくても手術はする

*CTでブラを確認できれば内視鏡の手術で問題なく済むと思う

*ブラが確認できなかった場合、内視鏡を体に入れて、それでもブラを特定できなかったら開胸手術になる可能性もある

*肺の潰れ方、再発のターンからすると、ほぼ間違いなく自然気胸だから、基本的には胸腔鏡下手術

*術後は平均して5日程度で退院できる

*手術しても再発しないわけじゃない。でも確率はグッと下がる

*この病院の内視鏡は最新型かつ最小で、先生自身の内視鏡手術の経験もかなりあって、気胸の手術も年間30はやっている


まあだいたいこんなような話をして、手術の日は明後日に決まった。時間は未定。麻酔の先生が朝からのオペがあって、それが終わり次第こっちに来てもらう手はずになったから、その朝からの手術の具合によってわたしの手術は決まるそうで。でもたぶん15時くらい。手術の状況によってICUに入るかどうか決まるけど、基本的に気胸に手術の場合はICUに入る必要はないみたい。ナースステーションに直結の心電図は病室のベッドからも繋げることができるおかげなんだって。ハイテクな病院だわ。


そして誓約書へのサイン。何やらたくさんある。一応先生が一枚一枚の意味を説明してくれたけど、何かよくわからなかった。まあ簡単に言うと、手術中に万が一のことがあるかもしれないとか、万が一脳死状態になった時の臓器提供の意思とか、手術の状況によっては輸血が必要になるかもしれないけど輸血しても良いか?とか、内視鏡手術だけど臨機応変で開胸になる可能性もあるとか、術後はこういう理由でこういう薬を使うとか(患者の承諾が必要な薬らしい)、そーゆう感じで4枚くらい。名前書いて認め印押して。さらに、あとで麻酔の先生が麻酔の誓約書を持って来るそうだ。


最後に先生はわたしとお母さんに言った。

「ぼくも頑張りますから、あなたもお母さんも一緒に頑張りましょう」


この先生なら大丈夫だと思った。すごい怖いし不安だけど、先生だったらきっと大丈夫だと思った。「絶対大丈夫」とか「任せて下さい」とかそういう言葉よりも、この「一緒に頑張りましょう」は胸に響いた。


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