術ですよ! その1

いつもと同じ病室での朝だった。

食べられないことはそんなに苦じゃない。だけど飲めないのはキツかった。まだ朝なのに。手術、早くても昼からなのに。今、夏なのに。飲めないとなると余計に飲みたくなるのが人ってもので。うーっと思っていたら、未だ飲み食いできない川澄さんが「お茶でうがいするとかなり飲んだ気になれるよ」と教えてくれたので、それに倣ってお茶でうがいをして誤魔化した。

朝食がないだけでいつもとだいたい同じで、顔を洗って歯を磨いてお茶でうがいしてテレビ見てX線検査して。X線検査から戻って来たら手術着に着替えるように言われた。回診時に手術用の点滴を入れるからそれまでに着替えろってことで。手術着はドラマと同じで青緑のワンピース(?)系のアレね。サイドが全部スナップボタンになってるやつ。ちょっと動くとボタンが全部とれちゃう危険な服。(笑)手術台で脱がせやすいようにそうなってるんだって!手術まではまだ時間があったから下はパジャマのズボンをはいておいた。じゃなきゃパンツが見えちゃう。

手術着になったところで、とうとう恐怖の座薬。いつもの痛み止めの座薬じゃなくて、浣腸ね、カンチョー。手術前に腹の中を空っぽにしておかなきゃいけないんですよ。しばらくトイレに行けないから。これは手術経験者の話からすると、手術に関する共通の嫌なことベスト3に入るんだよね。ちなみに他の2つは尿カテーテルと麻酔の管を喉から抜かれる瞬間。このベスト3のいちばん始めに経験する浣腸。座薬自体はもう慣れていたから別にどーってことはなかったけど、その後がひたすら辛かった。人為的な下痢だからね…。3回も行っちゃったよ。入院してから大して食べてもいないのに何がこんなに出るのさ?ってくらいね…。(笑)

何度もトイレに行っていたら抗ガン治療のおばさんが「今日オペなの?がんばってね!」と声をかけてくれた。知らない人も声をかけてくれる。これが病棟の同胞意識ってやつだと思う。自分のことじゃないけど、手術する人を見れば「がんばれー」って思うし、退院する人がいたら「おめでとう」って思う。


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この日の回診は心血呼外科部長のW先生。専門は確か血管だったかな。手術当日にこれといってすることもなく、この日のレントゲンを見て、聴診器あてて終わり。一緒にいた看護士のひとりに点滴の指示を出して次の部屋へ行ってしまった。背の低い子供みたいな看護士が手術用の点滴やらを持って戻って来た。ドレーンが左で、切るのも左だから点滴は右で、右腕をぎゅーって触って血管の場所を探していたんだけど全然浮かび上がってこなくて、この日までに栄養点滴を3回、採血1回、注射2回で、めぼしい血管スポット(笑)が全部使っちゃっているみたいで、困った看護士は「ちょっと待っててね」と言ってまたどっかへ行ってしまった。それでW先生を引き連れて戻って来た。あー、先生に点滴やってもらおうってことね…。(苦笑)

W先生は若い看護士に頼られてまんざらでもない様子で、「仕方ないなー、よく見ていなさい」と言わんばかりに わたしの右腕をチェック。「あ、ここだ」と先生が決めたスポットはなんと腕と手のひらの境目。いわゆる「腕時計をはめる場所」辺り。ええー!こんなとこに点滴打つかあ、普通?ってところ。先生は何の迷いもなく消毒して針をあてがってブスっと刺す…。刺す…。…あれ???血、血、血がッ!!!!針刺したところから血がダラーんと流れているじゃないの!シーツについてるし!!!なのに先生、ちっとも焦らずいったん針を抜いて脱脂綿で血をふき取り、めげずに再度チャレンジ。おいおいおいおい、血が出たことに関して何かコメントはないのかね?2回目は血も出なくて、テープで針を固定して、腕にラップみたいなシートを巻き付けられた。長時間の点滴仕様なわけ。シーツについた血については「手術の間にシーツ交換しておくからね」で終わり。


手術前からこんなの、ツイテない。しかも、点滴の針のとこ、超痛いし。今まで点滴なんて数え切れないくらい経験あるけど、こんなに痛いの初めてだってくらい痛いし。ちゃんと針が入っているのか不安だよ。大丈夫なのかよ。



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